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古代と未来が邂逅する、進化を続ける美術館 財団法人 平山郁夫シルクロード美術館

学芸員 平山東子さん学芸員 平山東子さん

学芸員 前田たつひこさん学芸員 前田たつひこさん

学芸員 堀内美和さん学芸員 堀内美和さん

古代の品々と、2008 年の最新作が並ぶ空間

平山郁夫シルクロード美術館は、平山夫妻が長年にわたり収集してきた、質・量ともに世界有数の規模を誇るシルクロード美術のコレクションと、現在も創作活動を続ける画家平山郁夫氏の最新作品が展示されることが特色だ。開館は2004 年7 月。館長は夫人の美知子氏が務めている。平山夫妻がシルクロード美術の収集をはじめたきっかけは、絵の題材を求めシルクロードを旅した昭和43 年にさかのぼる。以来、40 年近くかけて集められたシルクロード・コレクションは、西はローマから東は日本まで約37 ヶ国、ガンダーラの仏像や、カシミール地方や東南アジアの布、古代のコイン、彫刻、絵画、工芸品など約9,000点におよぶ。「当初、ここは八ヶ岳シルクロードミュージアムという名称で、館長が個人的に収集したシルクロードの布や工芸品のコレクションを、近隣の方々にお見せしようということではじまったプライベート美術館でした。ですが、コレクションがまとまった量となったことや、平山郁夫の日本画も見たいという声が数多く寄せられたことから、財団法人化を進め、『平山郁夫シルクロード美術館』として美術館を建設し、広く公開することにしたのです」。美術館設立の経緯を同館の学芸員、平山東子さんはこのように語る。
開館から4 年後の2008 年7 月には早くも新館が完成し、床面積が約2 倍に広がった。これには近年の平山郁夫氏の作品が、描く内容も物理的な大きさも、年々スケールを増していることも関係していると学芸員の前田たつひこさんは話す。「当館には先生の新作しか入りません。2008 年の作品が展示されることもありますので、驚かれる方もいらっしゃるんですよ。しかも、ご存知の通り、先生の作品は大きなものが多く、新館完成記念で展示した日本初公開の最新作(取材時2008 年9 月)『古代ローマの遺跡フォロ・ロマーノ』は、高さ181cm、幅が364cm(4曲)もありました。ですから、展示空間もそれに見合う広さがないと、絵の持っている迫力や魅力が発揮されないのです。また、当館にお越しになる方は、比較的年配の方が多いので、バリアフリーでゆったりと作品を見ていただけるようにしたいという思いもありました」。
さらに展示面積が広がったことで、テーマに分けた体系的な展示も可能になったそうだ。また、展示ケースには、照明にLED を利用したコクヨの最新型のケースが導入されている。「照明テストを繰り返し、考えたことを形にしてもらいました。『こうやって作品を見せたい』という理想に近づき、私たちとしても自信を持って展示できるようになりました」(前田学芸員)。

館内写真

館内写真

館内写真

館内写真

地域とつながり、広がる美術館をめざして

平山郁夫氏は、精力的に創作活動をおこなう一方で、東京藝術大学の学長を長く務めていたこともあり、「日本の美術教育に貢献したい」という格別の思いを持っている。そして、その思いは同館の教育普及活動にも色濃く反映されている。教育普及活動のプログラムを担当する学芸員の堀内美和さんは、次のように話す。「当館では、休館日を利用して、地元の小・中学校の総合学習の時間に美術館を開放するという取り組みをおこなっています。館内を自由に見てまわって、思い思いに感じたことを表現してもらうのです。絵を描く子は絵を描いたり、切り絵をする子は切り絵をしたり、詩を書いた子もいましたね。また、これはまだ計画段階なのですが、このあたりの山や木々などの自然を題材に、平山先生が地元の子どもたちにスケッチを教えるというプログラムも考えています。近日には講師の先生を招いて親子を対象にした日本画教室を開催する予定です」。
また、最近開催した、シルクロードの怪獣をテーマに陶芸作品を作るプログラムも好評だったそうだ。「シルクロードには、スフィンクス、ペガサス、グリフォンなど想像上の生き物、つまり怪獣がたくさん登場します。それを見ながら、粘土をこねて作品を作りました。面白い作品がたくさん出来ましたよ」。
その他、展示室内を使ってギャラリーコンサートや講演会を開くなど、大人も楽しめるプログラムも用意されている。「ギャラリーコンサートは、実物の作品を前に演奏するので、臨場感があり、参加者だけでなく演奏者にも喜んでいただいているようです。まだ、手探り状態で活動している段階ですが、こうした活動が定着していけば…」と、堀内学芸員は抱負を語る。

館内写真

ここでしかできない、ユニークな活動を展開

『シルクロードは仏教が伝来した道でもあり、今日、日本文化として誇れるもののほとんどは、多くの国々の恩恵を受けていることを忘れてはなりません』。これは、平山美知子館長が平山郁夫シルクロード美術館の挨拶として、パンフレットやホームページに記している言葉だ。
「イランやイラク、アフガニスタンなど中東の文化は、意外と日本に近いものがあります。今は世界情勢の影響を受けて、情報が少なくなり、身近に感じることができなくなっていますが、ここで実物を展示することで、少しでもその国の文化に興味を持ち、理解が深まれば、それが広い意味で平和につながります」と前田学芸員は話す。「当館のお客様は、シルクロードの美術が目当ての方、平山郁夫の日本画が目当ての方、この周辺に観光に訪れた方、大きく3 つの層に分かれており、現場の人間としては、どなたに向けた展示をするのか、非常に悩ましい位置づけの館です。また、当館は現存する作家の創作発表の場としても使っているため、作品が仕上がればそれが最優先となります。したがって、計画性を持って展示することも難しく、苦労も多いのですが、その分とてもやりがいがありますし、他館にできない活動ができるという意味で、面白い美術館になれると思っています」。

ミュージアムのご紹介

〒408-0031 山梨県北杜市長坂町小荒間2000-6
財団法人 平山郁夫シルクロード美術館
ホームページ http://www.silkroad-museum.jp/

美術館外観

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