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政治や言語、イデオロギーの違いを超えた文化交流で世界の平和に貢献する 東京富士美術館

文化交流の場にふさわしく古今東西の多彩な所蔵品を誇る美術館

「1983年に東京富士美術館をこの地に開設したのは、隣接する創価大学の学生さんたちに世界の一流の美術品に触れてもらい、一流の人間に育ってもらいたいとの、創価大学と東京富士美術館の創立者でもある池田大作創価学会インタナショナル会長の想いからです」と学芸部長の白根敏昭さんは語る。

東京富士美術館の所蔵品は古今東西の絵画から彫刻、工芸品、さらには写真まで非常に多彩で、その数は約3万点にのぼる。中心をなすコレクションのひとつは、イタリアルネサンスから始まり現代に至る西洋美術史500年を一望できる油彩画のコレクションである。設立当初から明確なコンセプトのもとに収集を続けてきた。設立後は、来館者の方々からの要望に応える形で日本美術も収集するようになり、2008年に静岡県の富士美術館の閉館に伴って、富士美術館で所蔵していた東洋美術の数々も同館の所蔵品として統合された。

もうひとつの大きな特徴は、約2万点にものぼる写真のコレクションだ。単独で写真ミュージアムができるほどの規模である。戦場カメラマンとして有名なロバート・キャパの作品も約1,000点所蔵している。キャパの弟のコーネル・キャパ氏から同館に寄贈されたカメラは、キャパがインドシナで戦死したときに身につけていた貴重なカメラである。カメラレンズを通して平和の大切さを訴えたキャパの作品は、文化交流を通して世界の平和を希求する同館の考えに沿ったコレクションでもある。

すべての所蔵品約3万点のうち約100点が、4年前に開設された新館で常設展示されている。一方、本館ではそのときどきに企画展が開催されている。「新館は常設展示による、いわば"静の空間"、本館は企画展ごとに様変わりする"動の空間"。私たちは新館と本館をそのように位置づけています」(白根学芸部長)。

そして、2012年3月、"動の空間"である本館がリニューアルオープンした。

学芸部長 白根 敏昭さん

学芸部長 白根 敏昭さん

作品に応じた微妙なライティングができるLEDベースの照明システム

本館のリニューアルで注目すべきポイントのひとつは展示照明のリニューアルである。この機会に、ベース照明すべてにLED照明が採用された。省エネという社会的な要請という点でも、経済性という点でも、さらに安定した光が得られる点でも、LEDはミュージアムの展示照明の主流になりつつある。

新しい照明システムの構成は、4本のベース照明とスポットライト。ベース照明は細かく区切られたエリア単位で個別に操作できるようになっており、それにスポットライトを組み合わせることで、展示する作品に合わせて微妙なライティングが設定できるようになった。

「リニューアル後の第1回目の企画展では、北京の故宮博物院の作品を取り扱っています。大きな掛け軸などはうまくライティングできていると思います。もっとも、西洋絵画や日本の屏風や陶磁器、刀剣など、今後、扱うことになる作品は実にさまざまです。それらをどのようにライティングするかはこれからの課題ですね。新しい照明システムによる演出効果が見えてくるのもこれからだと思います。ただ、導入に先立ち、材質や大きさの異なる作品を入れ替えながら何度もシミュレーションしましたが、いずれもうまくライティングできました。ですから、実際の作品展示においても、これから使い込んでいきたいと思います」(白根学芸部長)。

導入に先立つ、照明実験風景

屏風の照明実験(照度150ルクス以下)。蛍光灯より格段に良く見える。適正な照射には微調整が必要。最上部のベース照明はなくてもよいことが検証される。

工芸品の照明実験。展示台(H200mm)を使用するので下部照明は不要。ベース照明だけでは質感は十分に出ないので、スポットライトによる補完が必要。

刀剣の照明実験。波紋を見せるために上向きに展示。スポットライトを照射しないと波紋はきれいに見えない。角度によっては照明が刀身に映り込む。

日本画(掛け軸)の照明実験。光が均一に照射され、全体がかなり良い感じに見える。最上部のベース照明を消すと、上部の空間が暗くなり本紙が引き立つ。

150号程度の洋画の照明実験。従来照明より奥行き感が感じられる。上部照明3本のうち一番下に位置する照明が絵画表面に映り込むので、消灯する必要あり。

浮世絵の照明実験。奥行きを700mmにした場合、額の強い陰影が上下に現れるが、800mmにすると陰影は弱まる。ライティングと壁面位置に工夫が必要。

素晴らしい芸術・文化は人の心を打ち、相互理解と信頼関係を築く

東京富士美術館は「世界を語る美術館」をモットーに、世界各国の芸術・文化を紹介してきた。積極的な文化交流が、ひいては世界の平和を実現するとの考えからである。

そのモットーに沿って、本館では年に一度、世界各国の美術品を迎え入れ、海外文化交流特別展を開催している。これまで、日本と縁の深い欧米諸国のみならず、アジアやロシアなど、さまざまな国との交流を深めてきた。「海外文化交流特別展は、今後も同館のメインイベントとして継続していきます。冒頭に申し上げたとおり、若い学生たちに一流の人間になってもらうためにも、意義の大きな取り組みだと考えています」。国と国とのレベルで文化交流を図る企画展として、民間のミュージアムがここまで取り組んでいる例は少ないのではないだろうか。

「文化や芸術は、国の政治や経済体制の違いを超えて、あるいは、言語やイデオロギーの違いを超えて、素晴らしいものに触れるだけで人の心を打ちます。お互いを理解し合い信頼関係を築いていくのに、遠いようで一番確実な方法です。これからも、各国の文化交流を図る場として、同館を運営していきたいと考えています」と白根学芸部長は、将来を見据えて話を締めくくった。

上の3点の写真は、
日中国交正常化40周年記念
地上の天宮 北京・故宮博物院展より

ミュージアムのご紹介

〒192-0016 東京都八王子市谷野町492-1
東京富士美術館
ホームページ http://www.fujibi.or.jp

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