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北斎に関する研究と展示をさらに極めていきたい。

純和風の装いをそのままに 約2倍の規模に増改築

長野県の小布施町は、最晩年の葛飾北斎が地元の豪農商、高井鴻山に招かれて、活動したゆかりの地である。ここで北斎は、東町と上町の祭屋台の天井絵と、岩松院本堂大間の21畳敷の天井絵を描いた。東町祭屋台の天井絵「龍」「鳳凰」、上町祭屋台の天井絵「男浪」「女浪」、岩松院本堂の天井絵「鳳凰」は、いずれもあまりに有名である。かつて昭和40年代には、80歳を超えた北斎が小布施まで来て、これだけの作品を本当に描いたのか、という真贋論争もあったらしく、その後の研究がいかに進んだかがうかがえる。

2台の祭屋台の保存・展示を目的として、1976年11月4日、北斎館が開館。来年2016年に40周年を迎える。これまでに二度、改築が行われているが、2013年から三度目の大規模な増改築が行われ、2015年4月4日にリニューアルオープンした。本館を改築し、その後ろにほぼ同じ規模の新館を増築して、約2倍の規模のミュージアムとして生まれ変わった。同年4月4日~6月30日、新館落成記念「北斎とその弟子たち―北斎絵画創作の秘密―」が開催された。

長年の課題であった規模拡張に際しては、開館当初からの展示環境を踏襲することを重視した。「床の間にかかった掛け軸を自然に眺める」ように、北斎の肉筆画や浮世絵を鑑賞できる純和風の環境である。展示ケースの改装と新規導入、および、全館の照明設備を担当したコクヨファニチャーは、このことを念頭に置いて、展示環境づくりに取り組んだ。

岩松院本堂天井絵「鳳凰」図下絵

北斎館
館長 橋本 健一郎さん

演色性に優れたLED照明でディテールと色を忠実に再現

さかのぼること3年前、コクヨファニチャーは当時、新商品だったLEDのスポットライトを北斎館に提案した。橋本館長は多少、LEDに興味を持っていたものの、提案には半信半疑だった。しかし、デモを見て、性能の高さに驚かされる。「びっくりしました。従来のハロゲンと比べて、目を見張るほど作品のディテールが再現されました。カルチャーショックでしたね。あれを見れば、躊躇する余地はありません。すぐにLEDへの入替えを決めました」と橋本館長は、当時を思い出す。

LEDのスポットライトに入れ替えてから、ハロゲンでは見えなかった細かな筆遣いも、肉眼でしっかり見えるようになった。冨嶽三十六景に代表される北斎作品の多くは独特のベロ藍が使われているが、その藍色もLEDでは忠実に再現された。また、来館者が作品を食い入るように鑑賞するようになり、滞留時間が明らかに長くなった。LEDは紫外線や熱の放出が極めて少ないため、日本画の保存にとっても有効な照明である。省エネ効果も大きいので、館の規模が大きくなると、その点でも有利だ。

3年前のLEDのスポットライトの導入以来、北斎館とコクヨファニチャーとの付き合いが始まり、今回の増改築に際しても、同社が協力することになった。今回も当然ながら、全館の展示照明にLEDを導入した。スポットライトは調光タイプ、展示ケース内の照明は調色・調光タイプである。とくに、祭屋台をLEDのライティングでいかに細部まで見せるかが、改装の目玉のひとつだった。従来の蛍光灯では光が届かず、暗くて十分に鑑賞できなかったからである。

そこで、祭屋台の展示室では、足元の照明だけを残して、室内用の照明をすべて取り除き、祭屋台をライティングする照明だけを設置することにした。これで、じゃまになる他の光が一切遮断できる。その上で、照明デザイナーのプランをもとに何度もテストを重ねた結果、祭屋台の天井絵と装飾が色鮮やかに浮かび上がった。

「昔を知っている方は、あまりの鮮やかさに驚かれています。上町祭屋台の皇孫勝をしっかりご覧いただくために、以前は下におろして展示していました。しかし、新しいライティングでは、屋台の上にまで十分に光が届くので、本来の位置に戻すことにしました。やはり、ありのままにご覧いただけるのはいいですね」と橋本館長は語る。

以前なら企画できなかった展示会も積極的に開催していきたい。

今回の増改築では、展示ケースもすべて一新した。本館の壁面ケースは躯体とガラスはそのまま残し、照明と内装をリニューアルした。照明は上部と下部にLEDを設置。いずれも調色・調光タイプである。上下の新しい照明によって、いっそう洗練された光が手に入るようになった。内装は、床の間のイメージを忠実に再現するため、背面は聚楽風の土壁のクロスに、床は和紙でできた畳表にすべて張り替えた。

新館に導入した新しい壁面ケースも、本館にある従来の壁面ケースの意匠を踏襲。内装材を同じものに揃えた他、手すりや腰板にも木材を使用した。照明も同じく、上部と下部に調色・調光タイプのLEDを設置。扉は内開きのフラット扉を採用した。壁面ケース以外にも、独立型の平覗きケースと傾斜覗きケースも導入している。

こうして規模が2倍になり展示環境が一新されて、受け入れ体制が整ったため、従来なら企画できなかった展示会も開催できるようになったと、橋本館長は喜ぶ。「今年2015年、シカゴのウェストンコレクションが日本初公開となりました。すでに大阪市立美術館で展示が始まっており、このあと上野の森美術館でも予定されています。その間で、北斎館にも巡回していただくことになりました。以前の規模では、ウェストンコレクションなど、とても受け入れられません。早速、増改築の成果が現れたことはうれしい限りです」(橋本館長)。

また、以前は展示場所を確保するために、2階まで使うこともあったが、これからは本館・新館の1階だけで展示を完結させることができる。まだまだ発展途上だが、2階は北斎研究所のスペースに当てて、若い研究者が集う場にしていく予定だ。北斎に関する研究と展示をさらに極めていきたいと、橋本館長の夢は広がる。

背面は聚楽風の土壁、床は畳表、手すりと腰板は木製で、床の間で掛け軸を眺めているように鑑賞できる。

ミュージアムのご紹介

〒381-0201 長野県上高井郡小布施町大字小布施485
一般財団法人 北斎館
ウェブサイト http://www.hokusai-kan.com/

外観

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