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アートとデザインをつなぐ 富山の新しいビューポイント

作品を「見る」だけにとどまらず、「創る」「学ぶ」「遊ぶ」「楽しむ」「発表する」美術館

2017年8月26日、JR富山駅北側の富岩運河環水公園内に、近・現代の優れた美術作品やデザイン作品の所蔵を誇る富山県美術館(Toyama Prefectural Museum of Art and Design、略称TAD=タッド)が全面開館した。

当地にはそれまで近・現代美術やデザインを鑑賞する場として、1981年に開設された富山県立近代美術館があったが、耐震基準などの不足から、所蔵品の保存・展示や他館からの作品の借り受けのためにも、早急な対策が必要となっていた。

そこで、2013年に富山県立近代美術館の移転新築の基本計画が策定され、移転先に富岩運河環水公園西地区が選ばれた。遠くに立山連峰を眺望でき、四季折々の変化を楽しめる整備された公園で、JR富山駅から近いため、県内外から気軽に立ち寄れるロケーションだ。その後、約4年にわたる設計、建築の期間を経て、名称新たに富山県美術館が誕生したのである。

建物は地上3階建ての船の舳先のようなデザインで、東側正面は2階から3階にかけて全面ガラス張り。地元の産業振興に寄与するために、外壁および内部の天井と壁には富山県の主要産業であるアルミ材が、2階、3階の中央廊下には県産材である「ひみ里山杉」が使用されている。

2階フロアの「展示室3」。手前の左右に見るとおり、内装には「ひみ里山杉」が使われている。自然素材特有の不均一さが、温かみを感じさせる。

今回の記事は、学芸員などの関係者のインタビューによらず、富山県美術館の広報のご協力による情報提供に基づき、記述しています。

作品を鑑賞するための展示室は、2階と3階のフロアに6室あり、「展示室6」には、富山県出身の美術評論家、瀧口修造と、世界的な音楽家、シモン・ゴールドベルクのコレクションが常設展示されている(展示室と展示については、museum report参照)。

3階のフロアには展示室のほかに、アトリエ、ホール、図書コーナー、映像コーナー、キッズルーム、レストランなどがある。アトリエではワークショップや作家の公開制作などが行われ、ホールではインタラクティブアート(体の動きに合わせて作り出される光のアート)を体験でき、トークイベントや上映会にも利用される。

1階にはワークショップなどで制作された作品発表などにも活用される「TADギャラリー」や、ミュージアムショップ、カフェがある。

また、屋上には「オノマトペの屋上」と呼ばれる庭園が広がっている。「オノマトペ」とは、「ぐるぐる」「ひそひそ」「わくわく」などの擬音語・擬態語を意味するフランス語だ。ここには、オノマトペから発想された様々な遊具が並んでおり、無料で入場できて子どもたちが自由に遊べる。

このように富山県美術館は作品を「見る」だけにとどまらず、全館を通して「創る」「学ぶ」「遊ぶ」「楽しむ」「発表する」など、訪れた人々がアートを体験し、アートと交流できる美術館である。

3階フロアの「展示室6」には、富山県出身の美術評論家、瀧口修造のコレクションが常設展示されている。瀧口は旧富山県立近代美術館の設立に尽力した一人で、富山県美術館とはゆかりが深い。

新たに打ち出されたコンセプトは「アートとデザインをつなぐ」

富山県美術館は、旧富山県立近代美術館の歴史と所蔵品を引き継ぎつつ、新たにコンセプトの一つとして「アートとデザインをつなぐ」が打ち出された。

所蔵品は、20世紀以降の近・現代美術作品とポスター、チェアなどのデザイン作品を中心に約15,000点。近・現代美術作品については、ピカソ、ミロ、シャガール、デュシャン、ポロック、ジャスパー・ジョーンズ、アンディ・ウォーホル、フランシス・ベーコンの作品などを揃え、国内屈指のコレクションを誇る。

一方、ポスター、チェアなどのデザイン作品を数多く収蔵・展示していることも、富山県美術館の大きな特長だ。もともと旧富山県立近代美術館の時代から、当代の巨匠と呼ばれるグラフィックデザイナーたちの企画展や世界ポスタートリエンナーレトヤマなどが開催されており、デザイン作品が充実しているのはその流れを汲むものである。

そして、「アートとデザインをつなぐ」というコンセプトを掲げるにふさわしい美術館として、また、近・現代美術やデザインを収蔵するにふさわしい美術館として、設計建築から開館にかけて、第一線で活躍するデザイナー、クリエイターが関わっている。

建築設計を担当したのが、建築家の内藤廣だ。富岩運河環水公園で元気に跳ねる子どもたちと、その背景に見える美しい立山連峰。また、この公園を座敷に見立てると、富山県美術館の立地が奥の床の間にあたることから、「床の間」「子ども」「立山」が設計コンセプトとされた。

ロゴマークデザインは、旧富山県立近代美術館の開館以来、同館のポスターデザインなどを手がけてきた、グラフィックデザイナーの永井一正である。そのロゴマークはTOYAMAの頭文字Tと、ArtとDesignのAとDで構成され、アートとデザインをつなぐ場を表現。明るいブルーは白く輝く立山が映える空を、濃いブルーは深く豊かな富山湾を表現し、富山の美しさを内包している。

このほか、美術館員のユニフォームは、世界的なデザイナーの三宅一生、「オノマトペの屋上」の遊具のデザインや開館告知ポスターのデザインは、グラフィックデザイナーの佐藤卓が手がけた。

県民に親しみ愛され、時代とともに成長して価値が高まっていくような美術館をめざす。

富山県美術館は全面開館に先立ち、2017年3月25日にアトリエやレストラン、ミュージアムショップなどが一部開館した。そして、記念行事として「TADドキドキ祭」が開催され、トークイベント、ワークショップ、館内見学会などが行われた。続いて4月29日には「オノマトペの屋上」もオープンしている。

そして迎えた8月26日の全面開館では、記念式典の後、午後から一般公開となり、永井一正と佐藤卓による記念トークイベント、音楽コンサート、富山県出身の女優、室井滋らによるパフォーマンスなどが披露された。

また、8月26日から11月5日までの期間、「生命の美の物語 LIFE-楽園をもとめて」と題し、「開館記念展Part1」が開催された。アートの根源的テーマである「生命=LIFE」を取り上げ、それを「子ども」「愛」「日常」「感情」「夢」「死」「プリミティブ」「自然」の8つの章から構成。それぞれの章で、クリムト、シーレ、ピカソ、シャガール、そして、青木繁、下村観山、折元立身、三沢厚彦など、まさに古今東西の芸術家たちが生み出した作品177点が紹介された。

続く11月16日から2018年1月8日までは「開館記念展Part2」となる「素材と対話するアートとデザイン」を開催。並行して、「ビエンナーレTOYAMA2017」、「ワールド工芸100選」展、「国際北陸工芸サミット」シンポジウム、トークイベント「富山のデザイン、ものづくり」など様々な催し物が目白押しで、富山県美術館は「アートとデザインをつなぐ」というコンセプトにふさわしい第一歩を踏み出した。

3階フロアの「展示室5」は、チェアやポスターなど、現代のデザイン作品のコレクションを展示するデザイン室にあてられている。

富岩運河環水公園では一年を通じて多彩なイベントが展開され、若者や家族連れを中心に年間約140万人もの人が訪れる。美術館を核として今後、さらに市民、県民、美術愛好家の交流が深まれば、美術館と一体化した周囲の公園全体も含めた楽しい美術館へと発展するはずだ。

2017年8月にスタートした富山県美術館は、県民に親しみ愛され、時代とともに成長して価値が高まっていくような美術館をめざしていく。

ミュージアムのご紹介

〒930-0806 富山県富山市木場町3-20
富山県美術館
ウェブサイト http://tad-toyama.jp/
設計:内藤廣建築設計事務所

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