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展示室の環境と作品にあわせて、展示ケースを大幅にカスタマイズ

出光美術館(門司)の実績をふまえ独立展示ケースを一新

出光美術館は、出光興産の創業者である出光佐三氏の収集したコレクションを展示・公開するため、1966年10月に東京・丸の内の帝劇ビルに開館した美術館である。2016年10月に開館50周年を迎えたときには、出光佐三氏の起業の地である北九州市の門司港レトロ地区において、出光美術館(門司)が全面改築されてリニューアルオープン(museum report vol.31参照)。その1年半後の2018年4月には、東京の出光美術館でも、独立展示ケースを一新した。

そのときの経緯などを、主任学芸員の徳留さんにおうかがいした。

「出光美術館(門司)がリニューアルオープンしたときには、壁面展示ケースも独立展示ケースも、ともにコクヨさんから調達しました。そして、実際に使ってみて、満足いくものでしたので、東京の出光美術館にも新しい展示ケースを導入することにしました。また、門司で使い慣れていることと、東京と門司との間で互換性がほしかったこともあって、同じタイプの展示ケースが好都合だと考えました。

ただ、ここは帝劇ビルのワンフロアが美術館になっていて、壁面展示ケースはビルの躯体と一体化しているため、入れ替えたのは独立展示ケースだけです。新規に導入するせっかくの機会でしたので、門司で使ってきた展示ケースの仕様に、さらに工夫を施しました」と徳留さんは語る。

主任学芸員 博士(比較社会文化)
徳留 大輔さん

電源を天井から取ったことで、展示ケースの意匠がさらにシンプルに

新たに採り入れたアイデアは、独立展示ケースの電源を展示室の天井から取る設計だ。出光美術館の展示室の天井高は2,400mmと、ミュージアムとしてはやや低い。同館では従来より、天井から電源コードを引いていたのである。

昨今の美術館では、一般的に電源はフロアから取ることがほとんどだが、上部照明用に下から電源コードを引くことが必要となる。この場合、通常、ケース内のコーナーの一角に床から天井まで金属の細いパイプを立て、そのパイプの中に電源コードを通している。

一方、天井から電源を取ることさえできれば、金属パイプを立てる必要がなくなり、作品を展示するケース内の空間に一切、じゃまなのもがなくなる。また、出光美術館の展示室の天井付近は光が届かず暗いため、天井から引いた電源コードはまったく見えない。このように従来のスタイルを参考に新しい展示ケースを開発したことで、作品を鑑賞するうえで非常に望ましい環境が実現した。

もう一つ、出光美術館(門司)の展示ケースにはなかった新しい仕様として、上部照明の四隅にスポットライトを設置した。これによって、作品に応じたライティングがいままで以上に適切に選べるようになった。

「これが大正解でした。ケース内の空間を囲む素材がガラスだけになり、作品しか目に入ってきません。顔を近づけると、ほとんどガラスも感じませんので、まるで露出展示のようです。

スポットライトを取り付けたこともよかったと思っています。立体の作品をライティングするときに、メリハリが効くようになりました」と徳留さんはご満足の様子だ。

ただし、下部照明を付けなかったため、作品によってはそれを補うために、展示ケースの外から照明を打つこともある。

非常にシンプルな展示ケースなので、存在自体がほとんど気にならない。

2018年4月に導入してから、ほぼ1年が経過した。出光美術館では、年平均6回の展覧会を開催しており、2か月に一度の割合で作品を入れ替えている。実際に使ってはじめて気づいたこともあると、徳留さんはいう。

「コクヨさんの展示ケースは、作品が非常に映えるので、私は高く評価しています。メンテナンスにもこまめに対応してくれて、ありがたいと思っています。ただ、やはり実際に使ってみると、設計段階では気づかなかった課題もいくつか見つかりました」

その一つは、作品を出し入れする際の展示ケースの開閉に、少し手数がかかること。しかし、一方で簡単に開閉できるようでは防犯上、問題である。操作性とセキュリティの確保とは、トレードオフの関係にあるといえるだろう。また、横長行灯ケースのガラスを開けたときの開口幅が、もっと広いほうが作業はしやすい。しかし、これも強度の関係で現状が限界である。

もう一つ、展示ケースを移動する際のジャッキアップや移動先でのレベル合わせに、思っていた以上に時間がかかる。年平均6回行われる展示替えにかけられる時間は、約1週間。その間に前の作品を撤去して、新しい作品に入れ替えなければならない。展示ケースの移動に使えるのは、そのうちの1日程度で、時間のない中でのタイトな作業となる。

「もちろん、メリットはそれ以上に大きいです。まず、コクヨさんはいろいろとこちらの要望に対応してくれて、仕事も非常にていねいです。また、照明に関してはムダに広がらず、色も合わせやすいので、作品の魅力をいっそう引き出せるようになりました。展示ケース自体が非常にシンプルで、存在を主張しない点もたいへん気に入っています。うちの展示室の照明はやや暗めなので、特に作品をゆっくり鑑賞していただけます。

私たち学芸員にとってもそうですが、作品とそれを鑑賞する来館者の皆さまにも、ベストな展示ケースではないでしょうか」と徳留さんは締めくくった。


ミュージアムのご紹介

〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-1-1帝劇ビル9階
出光美術館
ウェブサイト http://idemitsu-museum.or.jp/

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