ミュージアムレポート

HOME > ミュージアムレポート > VOL.32 > 柔らかな光に包まれて 仏像が穏やかに浮かび上がる。 上原美術館

仏像ギャラリーを堪能した後、その奥に進もうとする来館者が目にするのは、龕(がん)にかけられた掛け軸である。龕とは、仏像を収めるために壁に作ったくぼみのことで、古くより祈りの場として用いられてきた。ここで来館者にいったん立ち止まっていただくことで、仏像ギャラリーとその奥の展示室との間に一区切りをつけている。

そこから回廊を先に進んだところに、栗材とアカシア材に囲まれたホワイエがある。左の写真に見るように、こじんまりした空間の中央に「興福寺千体観音」が一体たたずむ。照明は天空を感じさせる天井光のみ。一瞬、膜照明に見える天井光だが、実際には天井が真四角に掘り上げられ、そこから注がれる指向性のない拡散光によって、その奥がどこまで続いているのか、光源がどこにあるのかがわからない、あいまいで不思議な感覚を抱かせる造りになっている。

この拡散光が実に柔らかで、仏像のまわりにも部屋全体も、どこを見渡してもほとんど影が差していない。ノイズを感じさせない、非常にシンプルで心落ち着く空間である。

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